千葉地方裁判所 昭和59年(モ)856号 決定 1984年6月07日
原告
米村喜弘
被告
比嘉正英
主文
原告の文書提出命令申立てを却下する。
理由
原告の文書提出命令申立ての趣旨及び理由は、別紙文書提出命令申立記載のとおりである。
そこで判断するに、まず、犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができ、告訴は、検察官又は司法警察員(以下これを合わせて「検察官等」という。)に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示であるが、告訴は、それが訴訟条件とされる場合を除き、検察官等に対して捜査を開始する端緒を与えるにとどまるのであるから、告訴によつて告訴者と検察官等との間に法律上の権利義務関係が生ずるものと見るのは相当でないものというべきである。次に、検察官等が犯罪の捜査をするについて被疑者を取り調べ、被疑者の供述を録取することによれ作成された書面は、検察官等が公訴を提起し、公訴を遂行するための証拠を収集する目的の下に作成された書面であるから、これをもつて法律関係に付き作成された文書であると見るのは相当でないし、その書面は、検察官等が専ら自己使用の目的でこれを作成した文書であると見るのが相当である。
したがつて、原告の申立てに係る被告の習志野警察署司法警察員に対する供述調書は、民事訴訟法三一二条三号後段に規定された文書に該当しないものというべきであるから、原告の本件文書提出命令の申立ては不適法なものであつて、これを却下すべきである。
そこで、主文のとおり決定する。
(加藤一隆)
文書提出命令申立書
一 文書の表示
原告が昭和五七年四月二五日習志野警察署において告訴した事件に関し、同警察署の司法警察員が比嘉正英の供述を録取した調書
二 文書の趣旨
右の文書は、被告が本件民事訴訟において虚偽の答弁及び虚偽の主張並びに被告本人尋問において虚偽の陳述をしている事実を反証する文書である。
また、右の文書は、右告訴事件が起訴し得る事実を証する文書である。
三 文書の所持者
千葉地方検察庁
四 証すべき事実
(一) 被告が、昭和五七年四月二五日午前六時四五分ころ沖繩学生会館の四階洗面所で、原告の上口唇から鼻先にかけての部分を、右手の拳で殴つて、原告に顔面打撲口腔粘膜挫傷を被らせた事実
(二) 被告が、他の寮生と共謀して計画的に右のとおりの暴行を加えて、原告を右のとおり傷害した事実
五 文書提出義務の原因
右の文書は、告訴人(原告)と千葉地方検察庁との間の法律関係に付き作成せられたる文書であるから、民事訴訟法三一二条三号の規定により、千葉地方検察庁は、その文書を提出する義務がある。